左足ブレーキのメリット・デメリット

よくクルマ好きの間で議論になる「ブレーキは右足で踏むか、左足で踏むか」問題。私は、MT車を運転する際にはブレーキは基本右足。一方で、AT車(この記事ではCVT/DTC/トルコンATを指す)を乗るときは左足でブレーキを操作している。私がAT車で左足ブレーキを使っている理由と、左足でブレーキ操作をすることによるメリット・およびその操作で気をつけること、スポーツ走行での左足ブレーキの使い方を、今までの経験をふまえて考えてみる。

目次

教習所で「ブレーキ操作の基本は右足」と教わる

MTでは、クルマが停止する時にクラッチペダルを踏む必要があるため、ブレーキは右足で操作するのが基本(スポーツ走行時のMTでの左足ブレーキは後述)。

多くの方がそうであるように、私も自動車教習所で免許の実技試験をパスした2000年当時は、MT車で免許を取得するのが当たり前の時代だった。なので、MT車での教習の合間に、AT車の操作説明を受け数時間程教習した程度だった。

その時教えられたのは、クラッチ操作が不要というだけでMT車と変わらないからブレーキは右足で踏みましょう、という内容。その流れから、何十年も前から今日まで、AT車のブレーキは右足で操作すると教えているようだ。

時代や車に合わせて運転技量は変化する

当時は普通にMT車があったのだが、時代が変わり、現在はAT車が95%以上。もはやMT車を前提とした操作方法にあまり意味はないと考えている。

今後自動運転や運転支援システムの普及、ATの普及に伴いドライバに求められる操作が変わってくる。教習所はあくまで「教習」所。進化し続ける技術と法規に対して、アップデートが必要であろう。

形状から見る自動車メーカーのペダル設計

ここで、ペダルの形状を確認してみる。MT車のブレーキペダルとAT車のブレーキペダル形状を見てみるとわかりやすいが、MT車はブレーキペダルの幅がAT車より狭いのが一般的だ。

↓はS660(MT)のペダル類。右から、アクセルペダル・ブレーキペダル・クラッチペダル。

↓はN-BOX(AT)のペダル類。右から、アクセルペダル、ブレーキペダル、パーキングブレーキ。

中央のブレーキペダルの幅に注目すると、ATの方が明らかに幅が広い事がわかる。自動車メーカーは公言はしていないが、ATに関しては左足でブレーキを踏む人が一定数居ることを理解した設計となっていると思われる。ちなみに、N-Boxの場合アクセルペダルとブレーキペダルの距離は、フットレストとブレーキペダルの距離とほぼ同じとなっている。

左足でのブレーキ操作のメリット

では、左足でブレーキのメリットを考えてみる。

踏み変え時間の短縮

市街地など急な飛び出しなどによる制動が想定される状況では、アクセルを踏みつつもブレーキペダル前に左足を構えておく事ができるので、その分踏み換え時間のロスをなくし、制動距離を短くすることができる。

昔に比べ、AT車でサーキットを走行車両を見かけることが多くなった。踏み変え時間の短縮は、少しでも長くアクセルを開けていたいサーキットのような状況でも有効だ。

段差乗り越えや坂道発進の微調整

左足でのブレーキ操作は、段差を乗り越える時にも役に立つ。段差を乗り越えるために少しアクセルを開け気味にし、段差を乗り越えた直後にブレーキを掛けて停止するような場合、左足ブレーキを使うことで安全に操作することができる。

踏み間違いの防止

ニュース等で取り上げられているが、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故が発生している。交通事故に占める数はそれほど多くはない(ITARDAの論文より)が、高齢者ほど発生率が高い傾向にあるようだ。

そもそも、同じ右足でアクセル(進め)とブレーキ(とまれ)を使い分けると言うことは、同じ「踏み込む」という操作で、踏むべき場所を変えて加速と減速を区別するという事。通常と異なる運転姿勢や、緊急時の操作で混乱するのも無理はない。

一方で、左足ブレーキではカートと同様、止まるために左足操作、加速するために右足操作となるため、どちらの足で操作するかによって加速と減速を区別することができるため、踏み間違いの発生確率も低減できるのではないかと考えている。

左足ブレーキのデメリット

逆に左足ブレーキのデメリットは次のようなものだろう

カーブで上体が不安定になる

通常、右足でブレーキ操作を行う場合には左足はフットレストに置くことになる。カーブではこのフットレストに乗せた左足で「踏ん張る」ことにより、体を安定させて正確な操作を行うことを無意識のうちにやっていると思われる。

左足をブレーキペダルの前に構えている場合、体を支える左足がフットレストにない場合には不利になると考えられる。しかし、スポーツ走行など大きな横Gがかかる状況であれば相応のバケットシートにより上体を安定させるため問題とはならないし、街乗りではそれ程大きな横Gがかからないため慣れてしまえば全く問題なくブレーキ操作が可能。さらに、カーブ進入時に減速を完了させておく前提で話をすれば、横Gがかかっている場合はフットレストに左足を置いておけば良い。

慣れには時間が必要

今まで左足はブレーキ操作を経験したことが無いため、スイッチ的な操作になりがちである。スムーズなブレーキ操作を身につけるには一定時間の練習が必要であるのは何事も同じ。

練習方法

十分な広い場所と安全を確保しての練習を行うべきである。初めのうちはブレーキの踏み方がわからずギクシャクするが、15分も練習すれば、左足での減速にだいぶ慣れると思われる。

上体が安定しない場合、ブレーキの際にかかとを浮かせてしまう癖がある人(まだブレーキブースターなんて技術がない時代、思いっきりブレーキを踏む必要があった。そのため踵をフロアにつけずに全力でブレーキを踏むように踵を浮かしてブレーキ操作する人が一定数居るようだ)だと思われる。踵をフロアにつけて、スムーズにブレーキ操作を行う練習が必要だ。安定してブレーキを踏めないというのであれば、運転姿勢を見直すべきだろう。

左足でのブレーキ操作は「違法」か?

左足でのブレーキ操作は「違法」だろうか。道路交通法第70条には以下のように定められている。

(安全運転の義務)第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。(罰則 第百十七条の二第六号、第百十七条の二の二第十一号チ、第百十九条第一項第九号、同条第二項)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000105

すなわち、「確実に操作」して下さいということだ。目的は安全に操作できることであり、その手法についてはドライバの技量に委ねられている。

公道でブレーキを安全に操作できることを前提に私達は免許を与えられているから、左足ブレーキでも右足ブレーキでも「安全に操作できるようにしてくださいね」ってこと。確実に操作が行える場合において、左足ブレーキは違法ではない(逆に、右足でのブレーキでも確実に操作できなければ違法だ)。

MT車の左足ブレーキ

私はMT車もAT車もどちらも乗るのだが、サーキットでのスポーツ走行時はMT車でも左足ブレーキを使うシーンがある。ただ、AT車に比べてブレーキペダルの幅が狭いので窮屈な体勢でのブレーキ操作となってしまう。MT車の場合はクラッチペダルの操作もあるため、基本は右足でブレーキ操作を行うのが良いだろう。ここでは、主にスポーツ走行を前提とした便利なテクニックがいくつかあるため紹介しておく。

ブースト圧の確保効果は限定的

よく言われるのがブースト圧の確保。昔のターボ車はアクセルを踏み込みブーストが立ち上がるまでワンテンポかかってしまっていた。そのため、右足でアクセルを踏みながら左足ブレーキを行うことによりブーストをかけたまま減速ができ、立上り時のブースト圧の損失を防ぐことができる。古い車でガンガンサーキットを走る方にとっては、必要なテクニックだと思う。

ただしこれは古い車に限る。最近のクルマは、ブレーキペダルの信号が入力されるとDBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)のプログラムによりスロットルを絞ってしまう。これは、アクセルとブレーキ同時踏みの際にブレーキを優先とする安全配慮である。このため、ブースト圧の確保については意味がない場合が多い(本当に軽いブレーキなら、ブースト圧が下がらない車両もある)。また、最近のターボシステムのレスポンス改善により、アクセルを踏んだらすぐブースト圧が立ち上がる様に改良されており、その点から考えても効果は限定的である。

スポーツ走行におけるの車速微調整

サーキットなどにおいて、思わずコーナーに突っ込みすぎてしまった場合に、左足ブレーキで軽く減速することで適切な速度に調整するという方法もある。ただこれも、ブレーキを踏んだ際にブーストが落ちてしまうことなども考えると素早いペダル踏み変えの方が良いのかもしれない。あくまで緊急回避用と考えたほうが無難だ。

また、高速コーナーで本当に微調整の意味で左足ブレーキを使うことがある。車種によっては、軽いブレーキだとDBWによるスロット抑制を行わない制御となっている物があるのでこの範囲で利用すると、割と有効に使えるテクニックだ。ただ、踏込量を誤ると最近のクルマは前述の通りスロットルを絞ってしまう車種もあるので注意(唐突なDBW制御によってリア不安定になることもある)。これを雪道などで応用して「ケツを出す」ために使うとかあるが一般的ではないだろう。

ブレーキの効きのチェック

直線が長いサーキットで耐久レースなど過酷な条件で走行をしている場合、ブレーキでの減速の際にきちんと制動力が出ているかを確認するために使うことがある。本減速の前に左足ブレーキで一瞬ブレーキを掛け、本制動の前にブレーキが動作するかを確かめるときにも使える(私はこの使い方がメイン)。ここ一発のタイムよりも、安定して走行し続ける事のウェイトが大きい耐久レースでは、一瞬のタイムロスよりも安定して走行し続けることの方が大きく、トラブルの早期発見を目的としている。

MT(右足ブレーキ)とAT(左足ブレーキ)で混乱しないのか?

これは経験で語るしかないのだが、私は混乱することはない。例えば、一般的なバイクのリアブレーキが右足であるのと、スクーターのリアブレーキは左手レバーであったりと様々なバリエーションが存在しても事故が起こらない(多少はあるかもしれないが不明)ことと同様、MTはMT、ATはATで、別の車として扱っている。人間側が慣れることにより合わせ込んで行けば特に混乱はない。

まとめ

ブレーキの操作について、左足でブレーキを踏むことのメリット・デメリットを実体験に基づき並べてみた。左足ブレーキは個人的にはメリットの方がとても大きいと考えている。しかし、ある程度の練習と慣れが必要である。私は、ATのときはブレーキは左足、MTのときは右足。ただしMTのスポーツ走行時は、必要に応じて左足ブレーキを使うことがある。使えれば使えたで便利なものだ。

ブレーキの踏み方についてはその方法論が議論になりがちである。しかし、道路交通法に規定のある通り、目的はブレーキを「確実に操作」することにある。「どちらの足で踏むか」ではなく、公道での運転資格を持った免許保持者自身が、安全な運行ができるように考え・実行していくことが求められている。

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