指定したトルクで締め込むことができるトルクレンチ。タイヤ交換・オイル交換など、締付けトルクが決まっているので、ボルトやネジ穴の破損を避けるために持っておきたいツールである。DIYで作業する人向けに、自分の作業にあったトルクレンチの選び方を紹介する。
締め付けトルク
締め付けトルク=ボルトを締め付ける力で、N・m(ニュートン・メートル)。kgf・m(キログラム・メートル)が使われていたので旧車のサービスマニュアルを読むとkgf・mで記載されていることもあるが、今はISOで定められたSI単位であるN・mを使う。 1kgf・m ≒ 9.8067N・m。整備の際には1kgf・m=10N・mで覚えておいて、困ったことは無い。
一般的に、締め付けトルクであることが明確である場合、N・mを「ニュートン」、 kgf・m 「キロ」と読む。
N・mの意味するところは単位が示すとおり、トルク=力(F)×長さ(m)であり、ボルトの1m先にどれくらいの重さの力が掛かっているかを表している。
ネジがなぜ締まるのかを簡単に言うと、ボルトを締め付けていくとボルトがほんの少しだけ伸びる事によって、元に戻ろうとする力(軸力)が発生する、さらに、座面とネジの頭との摩擦が高まることによって締結される。ネジには大きさや素材によって「これくらいの力で締めるのがちょうど良い」締め付けトルクが存在しているが、それを大きく超えるとネジが破断したり、緩みやすくなってしまうため、指定したトルクで締め込んでやることがとても大切である。
車の部品で、特にネジの締付けをミスすると安全に影響する部品に関しては、締め付けトルクがサービスマニュアルで指定されている。その指定したトルクでの締付けを行うためのツールが、「トルクレンチ」である。
トルクレンチの使い方 (タイヤ交換作業の例)
DIY作業を行う際のトルクレンチとして「プリセット型」がベストだろう。一般的にトルクレンチで検索して出てくるのがこのタイプで、使う前にダイヤルでどれくらいのトルクで締め付けるのかをセットする。で、締め込んでいくと「カチッ」と鳴ったらそのトルクに達したことがわかる仕組みになっている。ここから、タイヤ交換作業を例にしてトルクレンチの使い方を解説する。
まず、「トルクレンチは締め込む時だけにしか使わない」こと。ネジを緩めるようにはできていない。ホイールナットを緩める時はクロスレンチなどを用いて緩めること。
トルクレンチのトルクをセットする。S660のホイールナット指定トルクは108N・m。トルクレンチの底にあるダイヤルを回して設定するタイプや、柄の部分を回して目盛りで合わせるタイプなどがあるが、他のモデルでも使い方は大きく変わらない。
底面にネジがついていて、UNLOCK方向に回す。
柄の部分をグリグリ回して、108N・mに合わせる。このトルクレンチは、銀色の部分に100と10の位、青色の部分に1の位が刻まれていて、下図で108N・mを示している。
目盛りを108N・mに合わせたら、トルクレンチを使う準備はOK。
タイヤを取り付けたら、ホイールナットを対角線上に締め付けていく。この際、途中まではクロスレンチなどの工具を用いて締め付ける。感覚的に「大体これくらいで規定トルクだな」という手前まで、対角線上に締めていく(感覚は慣れるしか無いが、初めのうちはクロスレンチで弱めに締めておき、トルクレンチでグリグリ締めても良いと思う。純正ホイールならハブ径がぴったりなのでよっぽどのことがなければ偏心しない)。
ホイールナットを本締めする際に、トルクレンチで締める。
締め込んでいくと、途中で「カチッ」と音がする。この瞬間に規定トルクに達していることを示しているので、トルクレンチから力を抜くこと。また、「カチッ」は1回だけ。同じボルトに何度も「カチッ、カチッ」とやると、オーバートルクになってしまうので注意。
ちなみに、ここでは、TONEのT4LN200の使用例を示したが、このモデル(TONEのT◯LN△△シリーズ。◯部分に差込角、△部分に上限トルクが入る)より、T4MN200(T◯MN△△シリーズ)のほうが、目盛りがカウンタになっているので使いやすい。
タイヤ交換用に良いものを、というのであれば、以下の2つのどちらかが良いだろう。目盛りの数値がカウンタ形式になっている。
すべての作業が終わったらトルクレンチは、必ず、目盛りを最小(0ではなくそのトルクレンチが図れる最小値)に戻して保管しよう。内部のスプリングが縮んだまま(トルクをセットしたまま)保管すると、内部のスプリングが変形し、正しいトルクが得られなくなってしまう。
トルクレンチのオススメの選び方
作業により、複数のトルクレンチが必要
トルクレンチを選ぶに当たり、目的の作業によって複数本必要となる。というのも、トルクレンチはセットできるトルクに幅はあるのだが、上限下限付近では精度はあまりよろしくないことと、締め付けトルクの調整範囲が、一本のトルクレンチではカバーできないからでる。大は小を兼ねない。
上記記事でも触れたが、DIY初心者は初めは安い工具を購入し、使用頻度が高ければ高い工具に置き換えていけば良いと思う。トルクレンチは精密機械だが、仕組みは単純で、内部にスプリングがあり、そのスプリングを縮めて目的のトルクになったらコマが外れてカチッとなる、という仕組み。高いトルクレンチも安いトルクレンチも基本は変わらない。内部のスプリングの精度や材質、アフターメンテナンスなどによる差と思われる。
トルクレンチが必要な作業が増えて来るにつれて買い足せば良いと思うのだが、初めてのトルクレンチとしては、以下の2本があればDIY用としては十分であろう。
1) タイヤ交換時のホイールナット締め付け用
2) オイル交換・ブレーキ整備用・サスペンション用
さらに、バイクを整備する場合は、5N・m~25N・m程度のレンジの物があると嬉しい。
1)タイヤ交換時のホイールナット締め付け用のオススメ
タイヤ交換作業で使う場合、必要なトルクは軽自動車で80N・m~普通車で120N・m位。高級車や外車スポーツカーだと140N・mやそれ以上、なんてのもあるが、おおよそ50~140N・mあたりで調整できれば問題ない。ソケットの差込角は12.7sq(1/2)を使うことが多い。
初めて購入される方は、まずは安いトルクレンチを購入してみるのが良いだろう。オススメは、エマーソントルクレンチセット。5年程使っていたが全く問題なく使えていた。ソケットも付いてくるので、このセットで所有しててきた車両のすべてのタイヤが交換できた。価格も安い。
もっと使い勝手が良い日本製を、というのであればTONE製をおすすめする。私はずっとTONEを使っている。
2)オイル交換・ブレーキ整備用・サスペンション交換用
オイル交換作業をDIYでやる場合、ドレンボルトの締め付けトルクは30~40N・m程。これだと、タイヤ交換用のトルクレンチでは計測範囲外となる。また、ジャッキアップせずにスロープに乗せて交換することもあり、仮にトルクが計測範囲内でも、タイヤ交換用のトルクレンチでは柄が長すぎて作業できないのだ。オイル交換用を想定したドレンボルトの頭が14や17[mm]の場合、トルクレンチは9.5sqのソケットを使うことが多い。ただし、オイル交換の際にはボルトの座面やネジ部にオイルが付着しているので、オーバートルクになりやすいから注意が必要。
参考までに下写真は、私がオイル交換用に使っているT3MN50(50N・mまで計測可能)。
オイル交換用に、長さや対応トルクも丁度良く、とても使い勝手が良い。
こちらも、初めのうちは下記のような1万円以下で購入できるものがオススメ。
私はアストロプロダクツ製のトルクレンチを長年愛用してきた。20~110N・mだとオイルのドレンボルトだけではなくブレーキのサポートボルト、サスペンション取付ボルトなどにも対応でき、DIY作業をやると使用頻度が高いトルクレンチである。
私はこれに加えて、あえて10~50N・mを持っている。理由は柄の長さの違い。柄の短い方が使い勝手が良い。
慣れてくると感覚でボルトを締め込んでも問題ないトルクで締められる。しかし、経験豊富なプロと違いDIYでは適切なトルクでネジを締められず壊してしまうリスクがある。DIY初心者こそ適切なトルクで作業できるようトルクレンチの使用をお勧めする。そして、使用頻度の高いものについては順次、追加で高価なものに変更していくスタイルが良いと思う。
TONEの工具であればふるさと納税返礼品でゲット可能
精度・耐久性がよく、プロのメカニックにも愛用されているTONEの工具がふるさと納税の返礼品としてゲットできる。ふるさと納税の返礼品で頂けるTONE工具の紹介はこちら
コメント