NBロードスターのフルブッシュ交換をDIYでやってみた記録

過去に所有していたNB8Cロードスターの話である。ロードスターの足回りを支えるアーム類の可動部には、ゴムブッシュが使われている。路面からの入力を、ゴムの弾性で吸収する。これらブッシュは、車1台で22個も使われており、コーナリングで勝負するロードスターのサスペンションの動きを決める重要な部品である。なお、スポーツグレードでは、一部硬めのゴムを使うことにより、よりダイレクトなフィーリングとなるようにセッティングされているようだ。

当時、購入から16年が経過しており、屋根付きガレージ保管といえど、ゴム部品はそれなりに劣化してきている。ということで、アーム類の動きを新車当時の状態までリカバリするためブッシュ交換を行った。プロに任せると部品込で大体20万程度となってしまう作業である。「だったら楽しんでやってしまえ」と勢いで着手した。

昔に行った作業だが、振り返り記録として残しておくことにする。

目次

交換した部品

部品個数
フロントロアアーム用ブッシュ4
フロントアッパーアーム用ブッシュ4
リアロアアーム用ブッシュ8
リアアッパーアーム用ブッシュ6
タイロッドエンドブーツ2

個数は一台分。フロントロアアーム用ブッシュと言っても、部品番号が異なるので注意が必要。マツダディーラーにお願いして部品番号を教えてもらいながら手配した。なお、リアのロアアーム用の外側のブッシュに関しては、トーコンキャンセルの効果を狙ってあえて硬度を前後揃えている。車両がマツダスピードロードスターであったため、使える部品はマツダスピード製を採用した。

交換箇所

フロント右側。下図赤◯の4つのブッシュを交換する(左側も同様)。

リア右側(リア左側も同様)。下図赤◯のブッシュを交換する。次で述べるトーコンをキャンセルする試みとして、青◯のブッシュの硬度を揃えるのと、黄色◯のブッシュについては、マルハ製トーコンキャンセラーに変更した。

リアのロアアームブッシュのトーコンキャンセルについて

ロードスターには、トーコントロール、という機構が搭載されている。仕組みはシンプルで、ブッシュの硬度を変更することにより実現している。リアのロアアーム外側のブッシュのフロント側が柔らかく、リア側が硬い(下図)。

例えば、左側に曲がるとき、外力を受けるとリアロアアームの車両前方のブッシュは大きくたわみ、相対的に後方側のブッシュはたわみ量が小さくなる。結果として、リアタイヤは若干、進行方向にステアする。これが車両挙動に影響する。乗り方にもよると思うが、私はコーナリング出口で早くアクセルを開けたいため、アクセルを踏んでスライドコントロールしながら脱出する乗り方を好む。よって、トーコントロールによりリアのトーが変化してしまうと、意図して許容したスライドが意図せず収まってしまう事になる。実際にサーキットでトーコントロールありの場合の画像をみてみると、コーナー進入時に弱カウンターを当てながらスライドしているが、途中で意図せぬグリップ回復が発生し、出口を向いていない。タイムへの影響はともかく、これでは気持ちよくない。

ということで、↑の左図のような挙動を狙って、リアロアアーム外側のブッシュは前後同じ品番を選んでみた。特にトーコンの影響を感じないという方や、街乗り重視では、通常の純正ブッシュを適用するほうが良いと考える。
*結果的に、オーバー気味の挙動が出ることになる。詳細は交換後のインプレッションにて。

必要なツール類

今回の作業に伴い、以下3つのツールを投入。

ギアプーラー

古いブッシュを抜くために使用するは、ホームセンターで売っているギアプーラーである。1,500円くらいだったと思う。それにプラスして、複数のボルトやワッシャーを組み合わせて使用した。
なお、これはブッシュの圧入にも使えるスグレモノである(下図 ギアプーラーと、複数のボルトとワッシャー)。ほとんどの圧入はこのギアプーラーだけで作業できる。

ストレート(STRAIGHT)
¥1,404 (2024/12/22 09:00:57時点 Amazon調べ-詳細)

自作圧入機

新しいブッシュを圧入するために、自作で圧入機を作成した。ホームセンターで購入したアングル材を複数組み合わせてボルトで止めただけ。圧入は、2トンのボトルジャッキで行うスタイル。ただ、殆どは↑のギアプーラーで圧入できるため、どうしてもっていう箇所があったら、近場の自動車修理工場にアームとブッシュ持って頼み込むってのもアリかも知れない。

大橋産業 (BAL)
¥2,510 (2024/12/22 09:00:58時点 Amazon調べ-詳細)

タイロッドエンドプーラー

フロントのタイロッドエンドを切り離す際に使用した。これは、他車両の整備にもいっぱい使えそう。プロはダブルハンマーというテクニックで切り離すそうだが、私は素直にツールに頼ることにした。1,500円くらいだった。

アーム類の取り外し手順

では、作業に着手。まずはジャッキアップしてウマに乗せる。このとき、取り外し予定のボルト・ナットにラスペネを吹いておく。これ、古い車だとやっておきたい前作業。ボルト・ナット系が折れたり舐めたりすると、そのリカバーにとても時間がかかるので。

リアのアーム類の取り外し

リアもフロントもであるが、アライメントが狂う。再度組み上げるときのために、ボルトを緩める際には写真を撮っておくのが良い。

スタビリンクの切り離し

リアサスの室内側、アッパーマウントの上部のナット2箇所を緩めておく(完全に取り外しはしない)

サスの付け根のボルトを緩める

アッパーアームのボルトを緩める

アッパーマウントの上部のナット2箇所を取り外すと、リアサスが降りてくるのでハブを踏みながらリアサスを取り外す。

サスが抜ければ、あとはアーム類の付け根のボルトを緩めていけば良い。結構きつくしまっているところもあるので注意。リアロアアーム付け根を緩める。

リアロアアームが降ろせた

ブレーキローターも外す。重いから。

リアアッパーアームも、割とサクサクっと外れてしまう。

リアはドライブシャフトが通っているので、それを避けながら作業する。リアのハブ部分だけがドラシャに繋がって残るので、自作のブレーキメンテ台に置く。建築工事に使う「つか」という部品に木の板を取り付けたやつ。念の為、アーム取り付け穴に針金で固定しておいた。

こうして取り外されたリアアーム一式とリアサスペンション。ボルトの向きなど、覚えておくために写真を撮っておくと良い。

フロントアーム類の取り外し

次はフロント。基本、作業は変わらない。スタビリンクを外す。

サスペンションの取り付けボルト緩める

サスアッパーマウントのナット外す。

車輪速センサ(ABS用かな?)のコネクタを抜いておく。

フロントブレーキキャリパ、ローターをバラす。

フロント側は、タイロッドエンドを切り離しちゃえば、ブレーキキャリパーだけ残してハブが取れる。ということで、ここで登場。タイロッドエンドプーラー。タイロッドエンドに差し込んで使う。

締め込んで行くと、あるところで「バキッ!」と外れる。気持ちのいいものではない。

上側も同様に。

フロントサスの取り外し。

これで、アーム類の作業に取りかかれる。

ロアアームの取り外し

大きなトルクで締まっているので、ラスペネ吹いて一気に緩める!

フロントまわりの取り外し部品。

取り外したサスペンション。ダンパーはバラしてOHに出すとともに、バネレートをサーキット用に変更。また、リアの追従性向上を目的としてヘルパースプリングの追加を行う。

これで、取り外しは完了。

ブッシュ交換

やっとメインイベントへ。ギアプーラーを使って、ブッシュを押し出す。経年劣化で痩せているので、それほど力はいらない。きれいな物もあったが、多くはボロボロになっていた。

アーム側の爪に引っ掛けて、プーラーを押し込んでいくと抜けてくる。クレ5-56などを吹いておくとスムーズに抜ける。

同様に全部のブッシュ類を抜いていく。再使用しないブッシュ類なのでゴムに傷がついても問題ない。抜けにくければカッターで切り込みをいれてもOK。

はずしたら、アーム類のサビを落として、塗装。走行に伴うサビなどもあるので、きれいにしておこう。洗浄後、シャシーブラックで塗装。耐水皮膜を形成してくれるので、ザビから保護するために使用。ブッシュを新しくするのであれば、アームも長く使えるようにサビ防止処理は必ずやっておくことをおすすめする。錆びてる部分をヤスリで削って、シャシーコートブラックを吹き付けるだけでサビの発生を抑えることができる(再塗装の際にブッシュを入れる部分まで塗らないこと。塗装の厚み分、圧入しにくくなる)

マルハ製トーコンキャンセラーを除く20個のブッシュ類。こいつを挿入していく。

場所によってはギアプーラーを用いたり、自作の圧入機を併用しながら圧入していく。中性洗剤を薄く塗るとか、シリコンスプレーを吹いておくとスムーズに入っていく(ズレ易くなるので薄く、程々に)。ギアプーラーが引っかからない場所については、自作の圧入機で圧入。

入った!!

圧入のコツ

  • 再塗装の際にブッシュを入れる部分まで塗らないこと(厚みが増して、入りにくくなる)
  • 中性洗剤などで滑りを良くしてから圧入すること
  • ブッシュ類はまっすぐ圧入する。ギアプーラーだと、均等に圧入するにはちょっとコツがいるので、取り外したブッシュで練習してから新品のブッシュ圧入を行うと良いです
  • ブッシュの「つば」の部分にギアプーラーを当ててしまうと、破損するので注意する(1個ダメにして再購入した…)
  • 圧入については、近場の自動車工場でもやってくれると思うので、もし手に負えなくなったらアームとブッシュを持っていってお願いするという最終手段もあると思う。
あわせて読みたい
ロードスター(NB8C)を約20年維持した感想と維持のコツ 我が家(実家)にロードスターが来てから、手放すまでの歴史を振り返ってみた。親父が10年、私が9年所有、その後、半年程出戻り預かりメンテで19年半ちょっと。 購入ま...

ダンパーの組み立て

ダンパーがOHから帰ってきた。足回りは、Koni ASA Half SpecialのバネレートF14K-R12K+サポートスプリングに変更することを伝え、ダンパーの減衰を変更してもらった。また、バネレート変更に伴いフロントの車高がメチャクチャ下がってしまうので、同時に車高調整用の樹脂製のスペーサーも特注で依頼。Koniの足は、上部のスペーサーでプリロードゼロ状態を維持したまま車高の調整が可能なので、プリロードがゼロの状態で適切な車高となるように調整した。いつものリア下がりの姿勢。サーキット+ハイグリップラジアルだと、これくらいのバネレートになってしまう。

サスのOHについては、以下記事参照(今回の作業とは別に2回目のOHの様子を記載)

あわせて読みたい
NB8Cロードスターのサスペンション取り外しとオーバーホール リアダンパーからのオイル漏れ。この車両はKONI ASA Half Specialのバネレートセッティングを変更してインストールしている。どうやら、Oリングが劣化し、オイル漏れし...

組み上げ

新しいブッシュを圧入したら、アーム類およびサスペンションを組み戻す。単純に戻していくだけなのであるが、注意点は、ボルトで締めて固定するときのアーム類の角度。ウマに載っているときはサスが伸びている状態なので、アーム類は全体的に自重で下がってしまっている。この状態で増し締めを行うと、せっかく交換したブッシュ類にテンションがかかった状態となってしまう。これを避けるために、できる限り着地した状態を想定した角度で締め付けを行う。特にサスペンションの取り付けボルトを締める際にはボルトを仮組みした状態とし、ウマに乗せた状態ままアームの付け根をジャッキアップして1Gの負荷(車両が着地した状態)を再現してやり、この状態で締め込んでいく。よく1G締め、とか言われるやつ。サスペンション側のブッシュは、これやらないとすぐ壊れるので注意。

ついでにマルハのショートスタビリンクを導入してみた。スタビライザーの角度が水平よりちょっと下に向くように調整。スタビの動きの適正化を試みた。

アライメントを調整するための偏芯ボルトは、取り外す前の状態を写真で撮っておいたのでそのとおり組戻し。

100kmほど街乗りを行って慣らしを完了させる。この時点で、サスがなめらかに動いているのがよく分かる。バネレート、減衰を「固くする=動きを制限する」方向に変更したにも関わらず。この辺はKONIマジックってやつ?

慣らし完了後、最後にちゃんとアライメントを取ってもらって終了!

インプレッション

新車時のフィーリングはきっとこうだったんだろうな、と。覚えてないけど。また、Koni ASA Half Special改と相まって、なかなか良い感じである。路面の入力はちゃんと伝えてくれるが、それがなめらかに伝わってくる。車両に対する外部からの入力はうまく丸められている。また、自分で挙動を作りたいときにも、各輪の動きを把握する事ができる。

サーキット走行してみると・・・

テンションMAXで、サーキットへ持ち込み。これはタイム出るでしょ!って。ところが、あまり変わらなかったのが事実。というのも、トーコンキャンセルしたためと思われるオーバー挙動が出るようになった。タイムとしては、グリップしているトーコンありと変わらない印象。リアトーコントロールは後輪の限界を向上させてくれる機構なので、タイムだけを考えるのであれば、外す必要はなかったかもしれない。あとは好み(乗り方のスタイル)の問題と思われる。メリットとしては、挙動は「自然」になった。コントロール性を重視するなら、外すのもアリ。交換後はアクセルでリアスライドをコントロールしてLSD効かせながら走行する楽しさがあり、乗っていて楽しいクルマになったことは間違いない。この後、タイヤをちゃんとしたものに変えて、ベストラップを更新している。

サーキット一発タイムを狙うならフルピロってのがあるが、犠牲が多いので、街乗りをする場合にはゴムブッシュへの交換が良いと思う。

まとめ

NB8Cのブッシュ交換を中心としたメンテナンスを行った結果、滑らかさが向上した。また、リアから聞こえてきた「コトコト」という音も解消。

一方、トーコントロールをキャンセルしても、(私の腕では)サーキットタイムは変わらず。オーバー気味の挙動になるためと思われるが、これはこれで楽しいのでそのままとする(戻したいときに一箇所、リアロアアームの外側のブッシュを打ち替えるだけなので、簡単にできる)。

あくまで新車時のフィーリングに近づけるためのメンテナンスとして、やってみるのもいいかもしれない。

この記事をSNSでシェアする
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次