最近時はMT(マニュアル・トランスミッション)の比率は徐々に下がってきているが、一般的に運転を楽しむスポーツドライビングの世界ではMTはまだまだ現役。特に、ライトウェイトスポーツカーでは、構造のシンプルさや重量の軽さからMTが選ばれる事が多い。MTでスポーツドライビングをするにあたって、基本テクニックの1つがヒール&トゥある。この記事では、ヒール&トゥの目的とその方法について解説する。
よくサーキットの直線からのコーナリング前に「フォーーーン!!」って空吹かしの後にコーナーを立ち上がっていく光景を見ることができるが、MTなら下のような操作を行っているはずだ。
バチッと回転数が決まってシフトダウンできると本当に気持ちが良いものだし、減速~立ち上がりまでとてもスムーズなドライビングができる。この記事では、その目的とやり方について解説していく。
ヒール&トゥの目的
ヒール&トゥの目的は「コーナリング~立上りに適切なギアを予め選択しておき、コーナリング速度と脱出速度を高めること」である。
例えば、以下のようなコーナーで考えてみる。
上記の図で、奥のコーナーの限界速度は③の60km/hとする。これ以上の速度では曲がれない。なので③は限界速度60km/h一定でコーナリングし、コーナーを抜けたら④アクセル全開で立ち上がりたい。
60km/hでコーナリングし、立ち上がるならギアは何速?
スポーツドライビングの場合、基本、踏める所ではアクセルは全開。S660を例にすると①の時点で100km/hということは、そこまで3速6,800回転で走行していたことになる。
ギア比と回転数、速度の関係については、ギア比とタイヤ径を入力すると計算できる表を作成した。下記リンク先を参照。
③のコーナリング速度が60km/hなので②の区間でブレーキで60km/hまで減速する必要がある。その時に、3速のままだと4,100rpmでコーナリングすることになる。この回転数だと、コーナリング時の走行抵抗で減速してしまうのに加え、立ち上がり時加速が弱い。そこで、2速5,900rpmでコーナリングし、コーナー終了後は全開で立ち上がるのが最も妥当な戦略と考えられる。
では3速→2速へのシフトダウンは「いつ」行うのか?
ここで問題になるのが、コーナー進入にあたってのシフトダウンのタイミングである。
③のコーナリング中シフトダウンは避けたい。なぜなら、コーナリング速度を高めるために、旋回中ずっと定常旋回できる適切なトルクをかけ続ける必要があるからだ。シフトチェンジすると、トルクが途切れてしまう。そこで、③より手前のタイミングでのシフトダウンをすることとなる。
①の100km/hの状態で無理やり2速に入れると、理論上は9,900rpmまで上がってしまう計算で、おそらくブローする。
残されたのは、ブレーキングで速度を減らしながら、ブレーキが完了するまでの間、すなわち②の60km/hまでブレーキで減速している間が、2速へのシフトダウンタイミングとなる。
グラフにすると、こんな感じ。
コーナーに入る前の減速中のタイミングで、コーナリング時のギアを選択する
「コーナリング~立上りに適切なギアを予め選択しておき、コーナリング速度と脱出速度を高める」ためには、コーナーに入る前の減速中のタイミングで、コーナリングに必要なギアにシフトダウンしておく必要がある。
半クラッチを使って回転数をあわせる事を考えてみる。右足はブレーキングを行っている。そこで、左足でクラッチを切り、シフトレバーを2速に入れる。入りにくいかもしれないけど、無理やり入れる。大丈夫、今の車は、シンクロ機構がなんとかしてくれる。そして、クラッチをゆっくりつなぐ。そうすると、半クラッチ状態で回転数が上がってくれる。しかし、この方法だと、ブレーキ中の車両減速挙動が変化してしまう。また、半クラッチで回転が上がってくるのを待つ間にコーナー入り口に到達してしまうし、半クラッチによってクラッチディスクが摩耗してしまう(本当に余談だが、私が昔参戦していたNSR50のレースでは2stの狭いパワーバンドを補うためにアクセルは全開のまま半クラッチだけで回転数を操作するテクニックがあり、よくサーキットで練習した。知ってる人は2stでミニバイクレースやったことがあるオジサンが多いでしょう)。
そこで使われるのが「回転数合わせ」。シフトダウンの時に、空ぶかしをして次に変えるギアに合った回転数に予めエンジンの回転数を合わせておくと、半クラッチでの車両減速挙動の変化なく、かつ、素早くシフトダウンすることができるというわけ。
下のグラフのように、例えば、3速60km/h一定速度で走行している時、60km/hを維持したまま2速にシフトダウンしたいとする。そのためには、クラッチを切った状態でアクセルを踏み込んでエンジンを空ぶかしし、回転数を5,900rpmまで上げてやると、半クラッチを使わずにスパッとクラッチを繋ぐことができる。
ブレーキ減速中は、減速による回転数の若干の調整は必要だが、それ以前にブレーキ減速中に同じことをやろうとすると足が一本足りない。クラッチペダルの操作は左足、右足はブレーキを踏んでいる。その状態で、アクセルペダルを踏み込んで次に変えるギアにあった回転数に合わせる必要がある。そこで、ブレーキを右足のつま先(トゥ)で操作し、アクセルペダルを右足のかかと(ヒール)で踏み込んでアクセルを空ぶかしし、回転数をあわせることで素早いシフトダウンと減速時の荷重の乱れをなくすテクニックがヒール&トゥと言う訳だ。
ヒール&トゥのペダルの操作方法
ヒール&トゥでは、ブレーキング中にクラッチを切って回転数を合わせてシフトダウンする。
ブレーキペダルを踏みながら、左足でクラッチを踏み、右足のかかと(と言っても足の側面に近い、かかとの少し上の方がやりやすい)でアクセルペダルを踏んで空ぶかしをして回転数を合わせる。
一連の操作をまとめたのが下の図。ここで重要なのはあくまで「ブレーキング」だということを忘れてはならない。ブレーキングは、一定Gで減速できるように操作するのが基本。なので、アクセルを煽る(空ぶかしする)時にブレーキペダルの踏力が変化したり、回転数を合わせるのをミスしたりして減速Gが変化することは無いように注意しよう。
実際にサーキットで行っているのがこのシーン。ペダル操作はカメラに写っていないが、ブレーキ中にアクセルペダルを煽って、シフトダウンしている事がわかるはず。速度域や減速Gには差があれど、峠道をマージンをとって気持ちよく走る場合にも有効だ。
まとめ
ヒール&トゥの目的は「コーナリング~立上りに適切なギアを予め選択しておき、コーナリング速度と脱出速度を高めること」。ブレーキング中にシフトダウンするために(言わば仕方なく)かかとでアクセルを踏んで回転数を合わせている。
主体はブレーキングであるため、ブレーキが疎かになったり、シフトダウンによるショックにより減速Gが不用意に変動したりが無いように注意する必要がある。
具体的な練習方法は、改めて追加していきたいと思う。
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