MRというレイアウトに加え、エンジンオイル量が少ないため、S660は油温が厳しい。夏場だと、高速道路の巡航で110℃。サーキットを全開で走るとすぐ120℃(*1)以上まで上がってしまう。これでは全開で踏めないし、今後パワーアップするにせよ、油温はまっさきに対応しておきたいところだったのでオイルクーラーを搭載した。
*1:本記事での温度/油圧表記は全てサンドイッチブロックに搭載のDefi製センサ値
ノーマルの油温
私のS660には、水温・油温・油圧・ブースト計が取り付けられている
給排気含めてノーマルのエンジンでも高回転を多用すると、油温は120℃程度まで上がってしまう(これ以上は怖くてなかなか踏めない)。
油温が高いとどうなる?
油温が高温になるとオイル粘度が低下し、油温120℃で油圧は100kPaを下回ることがある。そうすると、油膜切れによるタービンやメタル類へのダメージが怖い。987ボクスターはオイル量が多いので問題にはなりにくかったのが、S660ではMRという走行風が当たりにくく熱に厳しいレイアウトに加えて、軽自動車なのでガンガン回すし、オイルの容量も2.6L(オイル&フィルター交換時)と決して多くない。その結果として、油温は簡単に上昇してしまう。
純正指定の5W30のオイルでサーキットを全開走行した後のピーク値。油温128℃!(ムキになりすぎた)。油圧は50kPa切ってる…。せいぜい120℃をMax値としてマネジメントしたいところだ。
少なくとも10分程度は全負荷かけても壊れない車両を目指したい。また、今後のパワーアップを見据えると油温と油圧のマネジメントは必須ということで、オイルクーラーを検討していた。
オイルクーラーの比較
S660のオイルクーラーは水冷式・空冷式の2種類が存在する。
水冷式は、クーラント(冷却水)と、オイルとの熱交換を行ってオイルを冷却するというもの。空冷式は、オイルをそのまま冷却する。どちらもメリット・デメリットがある。このあたりは乗り方によって選べば良いと思う。
水冷式オイルクーラー
メリット:クーラントと常時熱交換を行っているため、水温上昇に伴いオイル温度も上昇。これにより、オイルを適正温度に温めてくれるのでオーバークールがない。また、走行風が当たりにくい状況でも油温を下げてくれる。
デメリット:冷却水を接続するラインを引かねばならず、DIYでの設置が面倒。
空冷式オイルクーラー
メリット:循環しているオイルを走行風で冷却。昔からあるもので、水冷に比べて価格も安価。
デメリット:冬場の短距離であれば、油温が上がりきらないこともある。また、オーバークール(水温だけ上昇しても、油温が暖かくなりにくい=燃費悪化)の可能性があるが、サーモスタット付きのオイルクーラーを選べば軽減されるため、それほど心配無いだろう。
私の場合「ちょい乗り」は殆どしない。長距離の走行、あるいは高負荷での走行が多く、オーバークールに関してはサーモスタット付きのオイルクーラーであれば問題ないと判断し、空冷式オイルクーラーに決定。
空冷式オイルクーラーの検討
S660の空冷式オイルクーラーを検討する上で悩んだのが設置場所。オイルクーラー設置の場所として、オイルパン付近、フロントラジエータ前、リアフェンダー内に設置するものが売られている。
オイルパン付近に設置するタイプ
シンプルな搭載が魅力。TRUSTから発売されているものが有名かもしれない。こちらも魅力的だが、オイルクーラー内部およびその接続配線にはオイルが流れている。サーキットで縁石を跨いだり、最悪グラベルに突っ込むような場合、下回りを擦ることになる。この時に、人間で言うといわば大動脈であるオイルラインやオイルクーラーを損傷し、オイル漏れなんてことになるともはや自走できなくなってしまう。各種補強パーツに守られているものの、個人的には下回りには設置はしたくなかったのでオイルパン付近に設置するものは断念。
フロント設置タイプ
フロントに設置するものは、冷却の観点のみを考えれば、走行風が一番当たりやすく、ベスト解だと思う。オイルラインが長くなるというデメリットが有る。
リアフェンダー内に設置するタイプ
フロントに設置するこちらと最後まで迷ったが、施工性の観点からリアフェンダー内に装着するサイドタンク式の44Gのクラーケンというオイルクーラーを選択した。
オイルパン付近に設置するタイプ、フロント設置タイプ、どちらも良さげだった。しかし、もし自分がオイルクーラーを設計するなら、
・オイル容量が少ないというS660のネガを解決するためオイル容量を増やす
・油圧の損失をなるべく減らすため、オイルパンから最短距離に設置
・下回りを擦ってオイルクーラーを破損することがないように、できるだけ上の方に設置
というように考えた結果、ドンピシャのコンセプトでサイドタンク式オイルクーラーが44Gのクラーケンだった。更に、S660専門店ということでノウハウがあるはず。価格もお手頃。
物自体はHPI製のようだ。DIYで取付、取り外しをする場合、ゴムパッキン等の消耗品や、単体補修パーツなどは、HPIのサイトから購入可能。
オイルクーラーの組み立てと動作確認
ということで早速発注。とりあえずはリアフェンダーの穴あけ加工を行うつもりがないため、夏場での使用を考えて、オプションのファンをセットしてもらった。
1週間ほどで商品到着。なるほど、オイルを充填できるスペースが有る。搭載に必要なものは一通り揃っており、ポン付け可能。
納入後、電源12Vを使用してテスト。12Vをかけてやるとファンが動作することを確認。停車時や低速時、直接風が当たらないので、こういった装備があると頼もしい。
ファンの動作確認テストが終了。次に、組み立て。
まず、ファンのハーネスが長すぎなのでカット。次に、オイルのIN/OUT側にシールテープを巻きつける。
シールテープについては、
シールテープの巻きつけ方法↑の記事に記載している。
オイルクーラーの取り付け
早速、取り付けにかかる。ジャッキアップしての作業となる。S660のジャッキアップ方法についてはこちら
純正サスだとストローク長い。
タイヤを外し、リアフェンダー内にアクセスできるようにしておく。
にしても、S660のマルチリンク式サス、金かかってるな~
オイル抜き
オイルを抜き、オイルフィルターも取り外す。やり方は以下記事に記載
私の車両には、すでに3連メーターのセンサーが組み込んである。その時に使用したオイルブロックを取り外す。センサ取り付けの記事の逆手順。
取り外したオイルブロックには、センサが組み付けられている(↑写真中央)ので、こちらを取り外しておく。
オイルブロックの取り付け
リアインナーフェンダーの取り外し
インナーフェンダーはクリップで止まっているだけなので、クリップツールで取り外す。クリップに損傷がないので、次回以降も再使用可能。
KTCのツールは、クリップを痛めることなく作業ができるのでおすすめ。リア側も丁寧に取り外す。
インナーフェンダーを取り外すと、リアフェンダー内にアクセス可能になる。
エアクリーナーの取り外し
純正エアクリーナーの場合は取り外しが必要。予め外しておく。エアクリボックスの外し方はこちらの記事参照
導風板の取り付け
次に、オイルクーラーに導風板を取り付ける。現物でリアフェンダーに合わせて作成した。大きめに作ってちょっとずつ切りながら整える。オイルクーラー搭載時にリアフェンダーとの隙間をなくすためにスポンジを貼り付け。
リアフェンダー内部に取り付け
付属の取扱説明書にリアフェンダ内の取り付け穴の指示の通りに取り付け。下写真は完成図のため上部のホースも締め込んであるが、後ほどオイルを注入するため、今は締め込まない(締め込んだら、シールテープを再度巻く必要がある)。上部ホースは、オイルクーラーのIN側=オイルブロックのOut側。下部ホースはオイルクーラーのOUT側=オイルブロックのIN側。フェンダーを外さずに作業したため、結構狭い。
締め込みにはモンキーレンチを使用。KTCの手持ちの普通のモンキーを使った(ホースやオイルクーラーの素材がアルミなので、アルミ製を使えば傷がつきにくいが、あまり見えるところじゃないしね)。
ファンの配線は、途中で切断し、アース用の丸形端子を接続。アース側は取り付けステーと共締め。プラス側はACC電源を引っ張ってくるため、後ほど処理する。
端子のカシメ方法は、以下の記事参照。
オイルブロックの取り付け
続いて、付属のオイルブロックを装着する。オイルクーラー付属のオイルブロックにも、シールテープを巻きつけておく。オイルフィルター座面を綺麗に洗浄し、Oリングにエンジンオイルを薄く塗布してからセンターナットを締める。エンジン側から、スペーサー、サンドイッチブロックの順で取り付けるのであまり強いトルクはかけられないと思い、24N・mで締め込んだ。
↑の写真でシールテープが巻かれている上側がIN(オイルクーラーのOUT)、下側がOUT(オイルクーラーのIN)につながる。
ホース、センサ類、オイルフィルタの順で取り付ける(逆順だと工具が入らないから)。
これで、オイルブロック側の処理は完了。エンジンオイルを通常量補給する。冬場だったので柔らかめのオイルでも良かったのかもしれないが、パワーアップを見据えて、今回からは5w-40のオイルに変更。今後、このオイルを通常使用していくつもり。
オイルクーラーにオイル注入
取扱説明書によると、オイルクーラーに1L程エンジンオイルを入れておくこと、とあったため、エンジンオイルを注入。
↑の写真でちらっと見える赤いものは、APのファンネル。じょうごに細いホースを使ってチマチマと入れていく。800mlくらいで垂れてきてしまったので、終了。
オイルクーラーにオイルが入ったら、オイルクーラーの取り付けは完了。
冷間時のオイル交換では、サーモ側が閉まっているので、余分にオイルを入れる必要はなさそう。
オイルクーラー取り付け後のオイル交換についてはこちら
オイルラインの取り回し
オイルラインを取り回すため、干渉するベルトガードを一部切断。
エアクリーナーを取り外し、エンジンルーム内にオイルホースを通す。オイルクーラーキット付属の説明書には、付属のオイルホース1本を半分に切って使うように指示があったが、実際に届いたものはホースが2本だった。ただ、これだとちょっと長めな印象。そこで、エアクリーナーボックス下部にステーを追加してそのステーにタイラップで固定した。ちゃんと固定しないと、下がってきてしまうので注意。
気になる下方向のはみ出しは、↓写真の通り。補強バーより上側に収まっているので、まぁ安心かな。
ファンの電源ハーネスを車室内へ引き込み
ファンの配線を室内に引き込む。以前取り付けた油温・油圧センサの車室内への引き込みのラインに添わせて、同じように配線した。
室内まで引き込んだら、養生して放置しておく。ファンの配線については、後日行った。ファンの取り付け記事はこちら
動作確認
各部からのオイル漏れがないことを確認したら、実走テスト。
①油圧上げた際にオイル漏れが無いことを確認する
まず、これが重要。オイル潤滑という重要システムに、Honda純正以外のデバイスを割り込ませるわけなので、慎重に確認。ガレージでレーシング(空ぶかし)しながら水温、油温が上がった際の漏れがないかを確認した。それにしても、オイル量が増えたので油温が上がりにくい。。。これだけでも効果に期待できる。頑張って油温を80℃まで上げて、オイルが柔らかくなったときの各ジョイント部の漏れが無いことを確認し、フェンダーカバーを取り付け。
②高負荷時のオイルクーラー効果の確認
次は実走でどれくらい効果があるかを確認した。手っ取り早く高速道路で3速全開。4速~5速で実測100km/h巡航。ノーマルで同じ条件だと、油温は120℃程度まで上がってしまったが、オイルクーラーを導入してからは100℃超えない程度を維持。素晴らしい。ちなみに、クーリングファンを作動させていない状態。
油温が上がりすぎていないので、油圧も160kPa程度に維持されている。これなら思いっきり踏める!!
逆に、冬場の下道だと油温計の針がなかなか動かない。ブロックに付属のサーモが開くまでは正しく油温を計測できていないからかもしれない。オイルが温まれば(86℃~)になれば適切な表示になるので運用上問題ない。
冬場で、油温が上がるまで20kmほど走行する必要があった。あまり変化無いと思ってたけど、やはりちょっと冷えるのかな?
ファンについては、夏場に動作させないと効果がよくわからないが、ファンを動作確認のために軽く回してみたら-5℃程度油温が即下がった。S660のノーマルリアフェンダのように走行風があまり当たらない場合に効果が期待できそうだ。
各部オイル漏れの確認
実走完了後、オイル漏れがないことを確認した。確認のためには リアインナーフェンダー を外す必要があり、手間だったのでカメラで確認した。確認に使ったのは、こちら。以前ボクスターのシリンダーチェックに使用していたやつ。
これで、死角になっているフェンダー内側も簡単にチェックできる。リアルタイムでの確認に加え、SDカード内蔵なので撮影した写真でオイル漏れをチェックできる。
漏れもなく、OK!!
まとめ
MRというレイアウトに加え、エンジンオイル量が少ないため、S660は油温が厳しい。今後のパワーアップを考慮して最初に冷却系は完了させておきたかった。特に、夏場のサーキットや峠の上りは、軽自動車であるS660にとっては過酷な環境となるため、クーリング対策が必要だろう。そこで、サーキットでガンガン走る人には必須の装備となる、オイルクーラーを導入した。
オイルクーラーは、空冷式で、サイドフェンダーに搭載する44Gのクラーケン。高速道路で高負荷走行した際の油温が冬場でも100℃以下でマネジメントできたため、効果が高いと考えられる。
関連記事
S660 DIY オイルクーラー比較検討と44G製クラーケン取付の記事はこちら
室内に引き込んだクーリングファンの配線とスイッチの取付はこちら
サーキットでの効果確認はこちら
オイルクーラー追加後のオイル交換についてはこちら
コメント